不動産取引の報酬形態

プロローグ

 不動産屋さんの仲介により、物件を買ったり借りたことのある方でしたら、皆さん、ご経験があるかと思いますが、契約が終わると不動産屋から仲介手数料を請求されます。

 物件価格にばかり目が行って、仲介手数料のことを忘れていたので、不動産屋からの請求書を見て、青くなった経験をお持ちの方もおられるかと思います。

 25年前の私がまさにそうでした。中野坂上に新しくアパートを借りた時のことですが、まだ学生だったので、賃料1か月分の仲介手数料(確か8万3千円)は懐へのダメージが大きく、部屋が決まった嬉しさが一気になくなってしまいました。

 ところでこの仲介手数料ですが、法律により上限や範囲が細かく制限されていることは、ご存知でしたか?

 また、売主、買主、仲介業者(元付、客付)の間で、報酬がどう配分されているか、ご存知ですか?

 そこで、ここでは、不動産屋が得る報酬が法律によりどう制限されているのか、また、ステークホルダの間でどう配分されているのかについて、紐解いていきたいと思います。

第1章 宅建業法による報酬額の制限

 ・報酬額(全体)
 ・報酬の範囲
 ・具体的な限度額

第2章 報酬形態(売買物件)
 ①分かれ
 ②当方不払
 ③当方片手数
 ④代理折半


第3章 報酬形態(賃貸物件)
 ①分かれ
 ②当方不払
 ③当方全額負担
 ④当方半額負担
 ⑤貸主負担折半
 ⑥借主負担折半

第1章 宅建業法による報酬額の制限

 不動産ビジネスでは、仲介/代理業務に対する報酬は、宅建業法により細かく制限されています。

 まず、報酬額に関してですが、宅建業者は「国土交通大臣」が定める額を超えて、報酬を受け取ることはできません。また、「事務所」毎に、公衆の見やすい場所に報酬額を「掲示」しなければなりません。

 次に、報酬の範囲ですが、原則、成約に至らなかった場合は、報酬、掛かった必要経費等を請求できません。但し、以下の場合は例外とされており、追加的な報酬を得ることができます。

 ①依頼者からの依頼による広告料金


 ②依頼者からの特別の依頼により、支出を要する特別の費用

  ・「事前」に依頼者の承諾が必要

 ③通常より、現地調査等の費用を要するもの 400万円以下の空家等

  ・報酬の上限は、18万円+消費税
  ・依頼者である売主からの受領に限られる

 さらに、具体的な報酬の限度額について見ていきたいと思います。まずは売買/交換ですが、次のように制限されています。


 a)媒介
 ・依頼者の一方から受領できる限度額は「X×1.1」

  400万円超    X=物件価格(税含まず)×3%+6万円
  200~400万円  X=物件価格(税含まず)×4%+2万円
  200万円以下   X=物件価格(税含まず)×5%

 ・交換の場合は、高い方の金額を採用できる


 b)代理

 ・依頼者から受領できる限度額は「2X×1.1」 ※双方代理は禁止のため


 c)媒介と代理

 ・双方の依頼者から受領できる限度額は「2X×1.1」


 次に賃貸ですが、次のように制限されています。


 a)共通
 ・媒介/代理ともに、借賃の1か月分が上限


 b)居住用建物

 ・依頼者の一方から受領できる報酬は、借賃の「1/2」まで
 ※「依頼者の承諾」を得ている場合を除く


 c)居住用建物「以外」

 ・双方、どのような割合でもOK

 ・「権利金」を売買代金とみなして、限度額を算定できる
 ※権利金とは、権利設定の対価と支払われ、返還されないもの

 最後に報酬にかかる消費税ですが、売買代金、交換差金の場合は、「建物」は課税、「土地」は非課税です。一方、賃貸借の場合は、非居住用は課税、「居住用/土地」は非課税となっています。

 なお、免税事業者でも、報酬として、消費税相当額の「40%」を含めることができます。

第2章 報酬形態(売買物件)

 まずは、売買物件の場合の報酬形態ですが、主なものとして、次の4つがあります。

 ①分かれ
 ②当方不払
 ③当方片手数
 ④代理折半

 「分かれ」は、元付業者は買主から、客付業者は売主から仲介手数料を受領するパターンです。物件価格が400万円以上の場合は、それぞれの報酬の上限は(3%+6万円)×1.1となります。

 「当方不払」は、元付業者が売主の場合です。客付業者は買主より仲介手数料を受領します。上限は、「分かれ」の場合と同様です。

 「当方片手数」も、元付業者が売主の場合ですが、この場合は元付業者も仲介手数料を支払います。よって、客付業者は、元付業者と買主の両方から、仲介手数料を受領します。それぞれからの報酬の上限は「分かれ」の場合と同様です。

 「代理折半」は、元付業者が代理契約の場合です。元付業者は、売主より(6%+12万円)×1.1以内を受領し、うち客付業者に(3%+6万円)×1.1以内を支払います。この場合、客付業者は買主より報酬を受領できない状況にあります。

第3章 報酬形態(賃貸物件)

 次に、賃貸物件の場合の報酬形態ですが、主なものとして、次の6つがあります。

 ①分かれ
 ②当方不払
 ③当方全額負担
 ④当方半額負担
 ⑤貸主負担折半
 ⑥借主負担折半

 「分かれ」は、報酬負担が貸主、借主で、報酬受領が元付業者、客付業者のパターンです。上限金額はいずれも、賃料の半月分以内です。

 「当方不払」は、元付業者が貸主のパターンで、報酬負担が借主、報酬受領が客付業者となります。上限金額はいずれも賃料の1か月分以内です。

 「当方全額負担」も、元付業者が貸主のパターンですが、この場合は、報酬負担が貸主、報酬受領が客付業者となります。上限金額はいずれも賃料の1か月分以内です。

 「当方半額負担」も、元付業者が貸主のパターンですが、この場合は、報酬負担が貸主、借主、報酬受領が客付業者となります。上限金額は貸主、借主は賃料の半月分以内、客付業者賃料の1か月分以内です。

 「貸主負担折半」は、報酬負担が貸主で、報酬受領が元付業者、客付業者のパターンです。上限金額は貸主は1か月分以内、元付業者、客付業者は賃料の半月分以内です。

 「借主負担折半」は、報酬負担が借主で、報酬受領が元付業者、客付業者のパターンです。上限金額は借主は1か月分以内、元付業者、客付業者は賃料の半月分以内です。
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